宇宙の
謎を
解き明かす
国際リニアコライダー(ILC)は、国際協力に よって 設計開発が推進されている次世代の直線型衝突加速器※です。
全長数十km の直線状の地下トンネル内で、電子と陽電子を光速に近い速度まで加速し衝突させて、その反応を測定する実験施設です。この施設では、どのようにして宇宙が誕生したのか、物質が生まれたのか、という人類が長年抱いてきた謎の解明に挑むことができます 。
ILCは、 硬い安定岩盤にトンネルを建設できることが条件で、現在、日本の北上山地が建設有力候補地とされています。
※加速器…電子や陽子などの粒子を光速近くまで加速して衝突させる装置
「加速器」は、科学の実験をするのに欠かせないものですが、研究機関にあるものだけが加速器ではありません。私たちの生活の中にあるものにも、その応用技術が使われているのです。あなたの生活をもっと豊かにする技術が、ILCからも生まれるかもしれません。
ワールドワイドウェブ(WWW)は、現代において欠かすことのできない情報基盤です。私たちが日々、画像や動画を楽しむことができるのは、このWWWのおかげです。
WWWは、HTMLというマークアップ言語で作成されますが、これを発明したのは欧州合同原子核研究機関(CERN)の研究者で、素粒子物理学の国際共同研究において情報を効率的に共有するためのツールとして開発したのがはじまりです。
CERNは、WWWによって生み出された年間の経済価値を年間1.5兆ユーロ(1ユーロ160円、240兆円)と試算しており、基礎科学がもたらした桁外れのイノベーションの規模が伺えます。
さらに、加速器研究の現場では、膨大なデータをリアルタイムで処理・解析するための分散コンピューティング技術や、高速・高精度なデータ通信技術、人工知能(AI)を活用した解析支援ツールなども発展してきました。これらの技術も、医療・通信・金融など幅広い分野への波及が進んでいます。
WWWに代表されるような人類の暮らしを根本から変えるIT基盤技術が、ILCからも創出されるかもしれません。
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日本国内だけでも1000台以上、世界ではおよそ1万台の加速器が、医療の現場で診断や治療に活用されています。
加速器で発生した放射線をうまくコントロールすることで、人体の内部の構造や機能を傷つけることなく検査したり、がん細胞を狙い撃ちして治療したりすることが可能になります。
現在では、コンピュータ断層撮影(CT)や、陽電子放射断層撮影(PET)で使用される薬剤の製造や、創薬研究においても加速器が欠かせない存在となっています。
また、難治性がんの新たな治療法として注目されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、従来の研究用原子炉に代わって小型加速器を使った中性子源の開発が進められ、実用化に向けた研究を継続しています。
さらに今後の加速器技術は、CTなどの既存手法では捉えきれない臓器の状態や機能がわかる先進的な検査薬原料の国産化にも寄与することが期待されています。
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火力発電所では、酸性雨の原因となる硫黄酸化物や窒素酸化物が多く排出されており、これらによる環境への悪影響が世界的な課題となっています。近年では、小型加速器が作り出した高エネルギー電子線を排ガスに照射することで、これらの有害物質を化学反応によって無害化・除去する先進的な大気浄化技術が開発されています。
また、原子力発電所における使用済燃料の処理処分も重要な課題です。現在、数万年という長い半減期を持つ高レベル放射性廃棄物を、加速器からの陽子ビームを用いた核変換により、数百年程度の寿命を持つ核種へと変換する「加速器駆動核変換技術ADS:Accelerator-Driven System」の研究が進められています。
ADSで中性子を効率的に供給するには、高出力かつ高安定性が求められる加速器技術が不可欠です。ILCで開発される超伝導加速器は、その特性を活かして、こうした未臨界炉システムを安全かつ効率的に稼働させる基盤技術としての応用が期待されています。
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おいしい作物をつくるために欠かせない品種改良にも加速器の技術が使われています。加速器から発生させた放射線によって、植物の突然変異を誘発し、新しい性質を持つ品種を生み出すのです。
従来の交配を繰り返す方法では5~10年かかる品種改良も、加速器を使うと2~3年で実現可能になり、大幅な時間短縮になります。どんな品種になるか予想できないという課題はありますが、塩害に強いイネや、二季咲きするサクラなど、成功事例が多数報告されています。
また、加速器で生成する放射線は、害虫の駆除にも利用されています。オスの昆虫を不妊化し、自然繁殖を抑制する「不妊虫放飼法」により、沖縄で大きな被害を出していたウリミバエの根絶に成功しました。今、みなさんの食卓に並ぶゴーヤやキュウリも、この技術によって、全国出荷が可能になったものなのです。
さらに、収穫後の農産物の殺菌や保存期間の延長にも、放射線技術が応用されるなど、加速器は農業のさまざまな場面で活躍しています。
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加速器は、素粒子物理だけでなく、人類の歴史や文化遺産を守るためにも活用されています。例えば、古代の遺跡や仏像などの年代を測定する「放射性炭素年代測定(C-14法)」には、加速器質量分析(AMS)という手法が使われています。AMSでは、ほんのわずかな試料から炭素同位体を高精度に検出することができ、資料をほとんど傷つけずに数万年前までさかのぼる測定が可能になります。
さらに、X線や中性子線を使った非破壊検査では、文化財を壊さずに内部構造や素材を調べることができます。例えば、木製仏像の中に納められた品物の確認、絵画や陶磁器に使用された顔料や釉薬の成分分析、古代の青銅器に施された鋳造技術の解析などが行われています。中性子線はX線よりも透過力が高く、有機物や軽元素の分析にも適しているため、木や紙といった素材の調査にも有効です。
こうした分析技術は、文化財の保存や修復に必要な科学的データの提供だけでなく、当時の技術や社会背景の解明にもつながります。加速器技術は、過去と未来をつなぐ架け橋として、文化財の価値を次世代に伝えるための重要な役割を担っているのです。
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